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横浜地方裁判所 昭和41年(わ)788号 判決 1968年6月29日

主文

被告人岩佐、同岡部を各罰金一万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金五百円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

被告人降旗、同古根村、同吉羽、同神保、同丸山はいずれも無罪。

理由

第一、被告人岩佐、同岡部に対する

昭和四一年(わ)第七八八号事件

(事実)

一、昭和四一年五月三〇日午前八時一〇分頃から同二〇分頃までの間、慶応大学、法政大学、東京工業大学等の学生約一五〇名は、米国原子力潜水艦の横須賀寄港に反対する目的で、横須賀市汐入町一丁目横須賀臨海公園東寄り出入口附近から同市本町EMクラブ前を経て同町米海軍横須賀基地正門前附近まで集団示威運動を行ない、その際、おおむね九列の縦隊列となつて右公園東寄り出入口附近から右EMクラブ前までは進行方向右側車道をかけ足でジグザグ行進をし、右クラブ前で右に旋回して一回かけ足で渦巻き行進をした後さらにかけ足でジグザグ行進をし、右クラブを通過した地点附近から右基地正門前附近までは小刻みなかけ足行進をしたが、右集団示威運動については神奈川県公安委員会に対して許可申請がなされておらず、従つてその許可を受けていなかつた。

二、被告人両名は外数名と共謀のうえ、右集団示威運動に際し、右学生集団の進行方向右側に被告人岡部が、左側に被告人岩佐が、それぞれ隊列に向つて先頭隊列の横に構えて所持する竹竿(昭和四二年押第八三号の一)を手で握つて位置し、それぞれ笛(同押号の二及び三)を吹き鳴らして音頭をとりながら右竹竿を引張つて右行進を指揮誘導し、もつて右無許可の集団示威運動を指導したものである。

(証拠) <省略>

(適条)

被告人岩佐、同岡部の判示所為は、いずれも昭和二五年神奈川県条例第六九号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例第一条、第五条、刑法第六〇条に該当するので、所定刑中いずれも罰金刑を選択し、その罰金額の範囲内で、被告人岩佐、同岡部を各罰金一万円に処し、同法第一八条により被告人らにおいて右各罰金を完納することができないときは、金五百円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置することとし、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項但書を適用してこれを負担させないこととする。

(弁護人らの主張に対する判断)

一、弁護人は被告人両名の本件行為は、主催者である原子力潜水艦寄港阻止横須賀実行委員会が神奈川県公安委員会から許可を得ていた昭和四一年五月三〇日午前九時ないし一〇時までの集会とそれに続く集団示威運動の一部として行なわれたものであるから、これを無許可の集団示威運動に該当すると判断するのは不当である旨主張する。

しかし被告人両名の指導した本件集団示威運動は神奈川県公安委員会が許可した原子力潜水艦寄港阻止横須賀実行委員会の主催する集団示威運動に先立つこと約二時間前に行なわれたものであることは前掲証拠から明らかであるのみならず、その場所及び参加者については同一性を認め得るけれども、その目的においては原子力潜水艦寄港反対の目的のほかに、後記の弁護人の主張自体からも明らかなように、本件行為に先立つて他の学生等が米海軍横須賀基地に侵入したとの理由によつて逮捕されたことに対する抗議の目的をも併有していたものであり、むしろ後者の目的が直接の動機となつて、許可された時刻の約二時間前に集団行動が行なわれたものとみられるから、右集団行動は主催者の意思に沿わず、その統制を離脱してなされたものであるというべきであつて、許可を受けた前記集団示威運動の一部として行なわれたものと見ることはできない。

二、弁護人は、仮に許可を受けた集団示威運動の一部とみられないにしても、被告人両名の本件行為は、これに先立つて学生ら一〇数名が米海軍横須賀基地に入つたという理由で逮捕されたことに対する緊急抗議デモであつて、県条例第二条の申請は性質上行ないえないものであるから無罪である旨主張する。

右主張はいわゆる超法規的違法阻却事由の存在を主張しているものと解されるが、右違法阻却事由の要件としては一般に、行為が健全な社会の通念に照らしてその動機、目的において正当であり、そのための手段方法として相当であつて、法益権衡の要件を具備していること、その行為の際の状況に照らしてその行為に出ることが緊急かつ止むを得ないものであり他にこれに代るべき方法を見出すことが不可能であるか又は著しく困難であること等の諸事情が考慮されるべきものである。

被告人両名の本件所為は前記のとおり右主張の如き抗議の目的と原子力潜水艦の寄港反対の目的とを併有するものであるが、そのいずれの目的に照らしてもそのために県条例第二条の規定する七二時間の猶予時間を置き得ないほど切迫した状況にあつたものとは認められないから(ことに右抗議の目的との関係についていえば右抗議の対象はすでに発生した過去の事柄である)、緊急やむを得ない場合にあたらず、この点においてすでに超法規的違法阻却事由の要件の一を欠いているものといわなければならない。

三、弁護人は、米国原子力潜水艦の安全性は極めて低く、その安全性に対する審査も甚だしく杜撰であり、同時に米国原子力潜水艦による核持込みは、日本国憲法第九条に明白に違反した行為であり、これを承認した日本国政府の態度もまた同様憲法第九条に違反したものであつて、被告人岩佐、同岡部がかような米国原子力潜水艦の日本寄港に反対した行動は、日本国の安全と日本国憲法擁護のための正しい行為である旨主張する。

右主張も超法規的違法阻却事由の存在を主張しているものと解されるところ、本件において日本国政府がその寄港を承認した攻撃型原子力潜水艦が核弾頭をもつサブロックを装備して寄港したか否かは必ずしも明らかではないが、いずれにしろ右潜水艦の寄港ないしその承認の問題は、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条の実施に関する政治問題であつて、これに反対する意思と意見を表明すること、そのために集団示威運動を行なうことはまさに憲法第二一条の保障するところであり、かような政治的意思と意見の表明である以上、そのための集団示威運動がその動機、目的において正当であることはいうまでもない。

被告人両名の本件所為は、前記のとおり、その直前に米海軍横須賀基地内に侵入したという理由により学生十数名が逮捕されたことに抗議するためになされたものであるが、判示のとおり原子力潜水艦の寄港に反対するためになされたものでもあるから、その動機、目的においては正当であるといわなければならない。問題はその手段、方法の相当性以下の要件を充足しているか否かであるが、これらの点については以下後記四において判断するとおりこれを肯認することはできない(緊急性の存在しないことについては前記二において述べたとおりである。)

四、弁護人は被告人両名の指導した本件集団示威運動は約一〇分という極めて短時間の行為であり、しかも後半の五分間は警察規制部隊により完全に規制を受けたものであつたこと、当時警備体制が完全にしかれていて、県条例第三条にいう公共の安寧に直接危険を及ぼすおそれは全くなかつたのであるから、性質上同条第一項本文により無条件のものとして許可されるべきものであつたこと、結果的にも早朝であり、交通上の障害も生ぜず、他に影響を及ぼすところがなかつたこと等を理由として被告人両名は無罪である旨主張する。

そこで本件の如き当初から許可申請をしなかつた集会、集団行進、集団示威運動(以下集団行動という)の主催者、指導者、煽動者が処罰を受ける実質的根拠について検討することとする。

まず憲法第二一条の保障する集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、代議制民主主義を基本的な政治原理とする日本国憲法のもとにおいては最も重要な基本的人権であつて、しかも現代の大衆民主主義のもとにおいては集団行動の自由は右表現の自由のなかでも極めて重要な役割を果すものであり、また代議制民主主義を基調とする政治体制のもとではその正常な運営上、選挙権を補う不可欠の参政手段の役割を有するものである。しかし集団行動はその性質上、一般公衆の生命、身体、自由及び財産ないしは公共の安全と秩序に対し影響を及ぼすことがあり得るのであつて、憲法上の基本的人権は公共の福祉に反しない限り国政上最大の尊重を必要とするものであると同時に、国民はこれを濫用してはならないのであり、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負うものであることは当然であるから、集団行動の自由といえども他人の基本的人権との矛盾衝突を調整する実質的公平の原理による当然かつ内在的の制約を内包しているものというべく、この意味において右制約は必要にしてやむを得ない最小限度のものでなければならない。

ところで昭和二五年東京都条例第四四号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例(以下都条例という)について昭和三五年七月二〇日最高裁判所大法廷判決は、都条例においては、「許可が義務づけられており、不許可の場合が厳格に制限されている。従つて本条例は規定の文面上では許可制を採用しているが、この許可制はその実質において届出制とことなるところがない」と述べ、これを前提として、不許可基準が明確でない疑があるとか、許否決定の保留されたまま行動実施日が到来した場合の救済手段が定められていないからとか、規制対象となる集団行動の行なわれる場所に関する制限が具体性を欠き不明確であるからとかいうことを理由に都条例を違憲無効とすることはできないとしている。そして同判決は都条例の定めている措置が、その基本的な部分において、憲法の保障する表現の自由に対する「必要にしてやむを得ない最小限度」の規制として許されるものであるか否かについての判断を示しているものであるから、同判決理由中、都条例の採用する許可制は、許可が義務づけられており、不許可の場合が厳格に制限されているからその実質において届出制とことなるところがないという部分がその基本的な理由とされているものと解することができる。従つて同判決は、昭和二九年一一月二四日最高裁判所大法廷判決が昭和二四年新潟県条例第四号行列行進、集団示威運動に関する条例違反事件につき判示した、「行列行進又は公衆の集団示威運動は、公共の福祉に反するような不当な目的又は方法によらないかぎり、本来国民の自由とするところであるから、条例においてこれらの行動につき単なる届出制を定めることは格別、そうでなく一般的な許可制を定めてこれを事前に抑制することは、憲法の趣旨に反し許されない」との集団行動の自由とその規制に関する根本原則を採用しているものと解さなければならない。

されば都条例と規定の体裁、文言、内容において殆ど差異のない前記神奈川県条例第六九号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例(以下県条例という)の採用する許可制はその実質において届出制とことなるところはなく、憲法第二一条に違反するとまではいえないが、その個々の規定の解釈にあたつては前段摘示の基本原則に従い、集団行動の自由を不当に制約しないよう厳格な態度をもつて臨むべきものと解する。

そこで先ず県条例の目的とするところを検討するには、同条例第三条の規定からして、同条例の目的は公共の安寧の保持にあり、同条例は地方自治法第二条第三項第一号の「地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持すること」という事務に関して制定されたものであるから、公共の安寧の保持とは、住民及び滞在者の生命、身体、自由及び財産ないしは地方公共の安全と秩序に対する侵害を予防し、これを保護することを意味するものと解することができる。従つて県条例のとる許可制は、集団行動の自由と住民及び滞在者の生命、身体、自由及び財産ないしは地方公共の安全と秩序(以下単に地方公共の安全と秩序という)との矛盾衝突を必要最小限度において調整することを目的とする制度であるといわなければならない。

そこで県条例第二条の規定する許可申請は、許可が義務づけられているが故に、実質的に集団行動の実施の届出とことならないものであつて、公安委員会が、かかる許可申請を受理することによつて集団行動の自由とその反対利益との調整をなし得る点にその意味があるものと解すべく、公安委員会が許可申請の対象とされている集団行動を同条例第三条第一項の公共の安寧即ち、地方公共の安全と秩序を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合に不許可とすることができる点は、当該許可申請に対し、かかる直接の危険の発生の予防即ち集団行動の自由とその反対利益との調整を実効あるものとするため、当該集団行動の実施を例外的に禁止することができるものとした趣旨に外ならず、同条例第一条に規定する許可とは、当該許可申請のあつた集団行動の実施が、地方公共の安全と秩序を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合にあたらないことを確認する行為にほかならないと解すべきである。

しかして同条例第三条は許可を義務づけており、しかも無条件許可を原則としていることは右規定上明らかであるから、許可は地方公共の安全と秩序を保持する上に直接危険を及ぼすおそれがある場合にもなされなければならないものというべく同条例第三条第一項但書は、地方公共の安全と秩序に対し直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合(に許可する場合)には勿論、直接危険を及ぼすおそれがある場合にも、かかる直接の危険の発生の予防のために必要最小限度の条件を例外的に付することができるものとしていると解すべきである。

しこうして地方公共の安全と秩序とは、当該地方における社会共同生活が安穏正常に運行している状態をいうものであつて、集団行動の実施はその性質上、平穏整然と行なわれる場合においても、かような状態に対しある程度の影響を及ぼすことがあることはこれを避けることができないのであるから、これに対し直接危険を及ぼすとは、かかる程度を超えてこれを著しく混乱させ、阻害し、かく乱することを意味するものと解すべく、条件はかような混乱、阻害、かく乱を予防するために必要最小限度において付せられるものといわなければならない。

このようにみてくるならば、県条例第一条の規定する許可申請を経由する行為は、例外としてなされる不許可即ち禁止の場合及び条件付許可の場合を選別する点に重要な意味を有するものというべく、県条例が憲法の許容する範囲内において集団行動を規制しようとする目的を達成するために必要なものであるとはいえ、元来かかる選別をする必要がなかつた場合においては選別の機会を可能とする許可申請は必ずしも不可欠のものとは解し難く、許可申請を経由しなかつた無許可の集団行動が、地方公共の安全と秩序を、集団行動の実施の性質上本来及ぼすことのある程度を超えて著しく侵害したと認められないときは、県条例上右の如き選別の機会を可能とする許可申請を経由すべき義務を負う主催者についてはともかく、この義務を負うとは認められない指揮者、煽動者についてはこれを処罰する実質的根拠を欠くものと解すべきである。

しかしながら被告人両名の指揮した判示の集団示威運動は短時間のものとはいえ、交通秩序に具体的、現実的な障害を生ぜしめる程度のかけ足によるジグザグ行進、渦巻き行進を伴つたものであつて、道路交通を一時的にもせよ完全に停止させたものであり、右にいう程度を超えて著しい侵害を生ぜしめたものであることは前掲各証拠によつてこれを認めることができるから、結局右弁護人の主張は採用することができない。

第二、被告人降旗、同古根村、同吉羽、同神保、同丸山に対する各被告事件

(無罪理由)

一、(1)被告人古根村に対する本件公訴事実は、

被告人は、昭和四一年五月三〇日横須賀市において、原子力潜水艦寄港阻止横須賀実行委員会が主催した原子力潜水艦寄港阻止横須賀集会に参加したものであるが、同日午後八時二分ごろから午後八時二一分ごろまでの間、同市汐入町無番地臨海公園中央出入口附近から同市本町一丁目一番地先路上に至るまでの間、右大会に参加した学生約八〇〇名の集団が、神奈川県公安委員会から前記主催者に対し、集会、集団示威運動の許可にあたつて付されていたところの行進は信号、警察官の指示に従い平穏に秩序正しく行ないジグザグ行進、かけ足行進、隊列のことさらな停滞などを行なつてはならない旨の条件に違反して、ジグザグ行進、かけ足行進ことさらな停滞等を行なつた際、外数名と意思相通じ、前記学生の隊列の先頭列外に位置し先頭隊列が横にして所持する竹竿を握つたり、笛を吹いて音頭をとつたりして、これを誘導しさらに、坐り込みの指示等をして隊列をことさらに停滞させ、もつて、右許可条件に違反した集団示威運動を指導したものであるというのである。

<証拠>によれば、被告人古根村は昭和四一年五月三〇日午後七時頃横須賀市横須賀臨海公園において開催された原子力潜水艦寄港阻止横須賀実行委員会主催の原子力潜水艦寄港阻止横須賀集会と称する集会及びこれに引続いて行なわれた集団示威運動に参加したこと、右集団示威運動には「ジグザグ行進、かけ足行進、隊列のことさらな停滞などを行なつてはならない」との条件が付せられていたこと、右集団示威運動に参加した学生約八五〇名は、約四五〇名の第一てい団と約四〇〇名の第二てい団に分れて同日午後八時三分頃右臨海公園の中央出入口附近から隊列を組んで出発し、同市本町三丁目EMクラブ方向に向い、左側車道を小刻みなかけ足で行進し、右EMクラブ前附近路上において一時停止した後、同所においてかけ足でジグザグ行進をし、さらに右第二てい団はゆるい歩調のかけ足行進をして同市本町一丁目一番地先に至り、同日午後八時二一分頃同所においてその隊列先頭部分がすわり込もうとしたが、直ちに警察部隊に規制されてすわり込むことができなかつたこと、被告人古根村は外二名位と意思を通じ合い、右EM出発時から右クラブ前附近路上に至るまで、右第一てい団の隊列の先頭列外前方に位置し、隊列に正対し笛を吹いて音頭をとりながらこれを誘導し、右第二てい団が本町一丁目一番地先路上においてすわり込もうとした際、単独で、右てい団の隊列の先頭列外に位置し、「止まれ、止まれ」、「すわれ、すわれ」と呼びかけてすわり込みの指示をしたことを認めることができ、右の事実は昭和二五年神奈川県条例第六九号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例(以下県条例という)第五条、第三条第一項但書、神奈川県公安委員会神公集第四一号昭和四一年五月二九日付条件付許可処分に該当する。即ち右許可処分中「ジグザグ行進、かけ足行進を行なつてはならない」との条件違反の集団示威運動の指揮をしたものということができる。

(1)被告人降旗に対する本件公訴事実は、

被告人は、昭和四一年五月三〇日横須賀市において原子力潜水艦寄港阻止横須賀実行委員会が主催した原子力潜水艦寄港阻止横須賀集会に参加したものであるが同日午後八時七分頃から午後九時三一分頃までの関、同市汐入町無番地臨海公園出入口附近から同市本町二丁目無番地米海軍横須賀基地正門前に至る間の道路において、右大会に参加した学生約二〇〇名の集団が、神奈川県公安委員会から前記主催者に対し集会集団示威運動の許可に当つて付されていたところの行進は信号、警察官の指示に従い平穏に秩序正しく行ない、ジグザグ行進、かけ足行進、隊列のことさらな停滞等を行なつてはならない旨の条件に違反して激しくジグザグ行進、かけ足行進等の集団示威運動を行なつた際、外数名と意思相通じ、前記学生の隊列の先頭列外に位置し、先頭隊伍が横にして所持する竹竿を握つたり、笛を吹いて音頭をとるなどして前記行進を誘導し、更に前記米海軍横須賀基地正門前道路上において坐り込みの指示等して前記学生集団を同所に坐り込ませてことさらに停滞させ、もつて右許可条件に違反した集団示威運動を指導したものであるというのである。

<証拠>によれば、被告人降旗は、昭和四一年五月三〇日午後七時頃横須賀市横須賀臨海公園において開催された原子力潜水艦寄港阻止横須賀実行委員会主催の原子力潜水艦寄港阻止横須賀集会と称する集会及びこれに引続いて行なわれた集団示威運動に参加したこと、右集団示威運動には「ジグザグ行進、かけ足行進、隊列のことさらな停滞を行なつてはならない」との条件が付されていたこと、右集団示威運動に参加した学生約二〇〇名は同日午後八時七、八分頃隊列を組んで右臨海公園を出発し、横須賀駅方向から同市本町三丁目EMクラブ方向に向い、車道右側をゆるやかなかけ足で車道右側部分を一杯にならない程度の蛇行をしながら行進し、右クラブ前を通過して、同市本町二丁目在日米海軍横須賀基地正門前に至り、同日午後八時一七、八分頃同所附近において全員がすわり込み、右すわり込みは午後九時半頃まで継続したこと、被告人降旗は、外一名と意思を通じ合い、右学生集団の隊列の先頭列外前方に位置し、笛を吹いて音頭をとり、先頭隊伍が横にして所持する竹竿を握つたりなどして終始右行進を誘導し、右すわり込みに際しては笛を吹き両手を上げて上下に振つてすわり込みの指示をしたことが認められ、右の事実は、県条例第五条、第三条第一項但書、右神公集第四一号条件付許可処分に該当する。即ち右許可処分中「ジグザグ行進、かけ足行進、隊列のことさらな停滞を行なつてはならない」との条件違反の集団示威運動の指揮をしたものということができる。

(3)被告人神保に対する本件公訴事実は、

被告人は、昭和四一年六月一日横須賀市において行なわれた原子力潜水艦寄港阻止横須賀実行委員会主催の原子力潜水艦寄港阻止横須賀集会に参加した者であるが、同日午後七時二二分ごろから午後七時三三分ごろまでの間、同市汐入町無番地臨海公園東側出入口附近から同市本町一丁目旭商会前に至るまでの道路上において、前記集会に参加した約二五〇名の学生集団が神奈川県公安委員会が前記主催者に対し、集会集団示威運動の許可に当つて付した条件に違反して、隊列を約一〇列縦隊とし、ジグザグ行進、かけ足行進、隊列のことさらな停滞等を行なつた際、外一名と意思相通じて隊列先頭列外にあつて先頭員が横に構えた竹竿を引つ張り、笛を吹きつつ右行進を誘導し、さらに坐り込みを指示して、隊列を停滞させ、もつて前記許可条件に違反した集団示威運動を指導したものであるというのである。

<証拠>によれば、被告人神保は昭和四一年六月一日午後六時半頃横須賀市横須賀臨海公園において開催された原子力潜水艦寄港阻止横須賀実行委員会主催の原子力潜水艦寄港阻止横須賀集会と称する集会及びこれに引続いて行なわれた集団示威運動に参加したこと、右集団示威運動には、「行進は六列縦隊とすること、ジグザグ行進、かけ足行進、隊列のことさらな停滞などを行なわないこと」との条件が付されていたこと、右集団示威運動に参加した学生約二五〇人は同日午後七時二〇分過頃一〇列の隊列を阻んで右臨海公園東側出入口を出発し、同市本町三丁目EMクラブ方向に向い、左側車道を道路一杯にかけ足でジグザグ行進をし、右EMクラブ前路上で大きくU字型蛇行進をし、その直後から警察部隊の規制を受けながら行進し、同日午後七時三〇分過頃同市本町一丁目旭商会前路上において右学生集団のうち先頭から一〇列位の学生がすわり込もうとしたが直ちに警察部隊に規制されてすわり込むことができなかつたこと、被告人神保は外一名と意思を通じ合い、右学生集団の隊列の先頭列外前方に位置して、先頭隊伍が横にかまえて所持する竹竿を引張り、笛を吹いて音頭をとりながら右のかけ足でのジグザグ行進を誘導し、右のU字型の蛇行進に際しては隊列に正対して右竹竿を引張つてこれを誘導し、右集団の先頭から一〇列位の学生が前記旭商会前路上においてすわり込もうとした際、単独で笛を長く一声吹きならし上体を後にのけぞるようにして隊列の先頭の者にもたれかかつてすわり込みの合図をしたことが認められ、右事実は県条例第五条、第三条第一項但書、神奈川県公安委員会神公集第四三号昭和四一年五月三一日条件付許可処分に該当する。即ち右許可処分中「行進は六列縦隊とすること」「ジグザグ行進、かけ足行進を行なつてはならない」との条件違反の集団示威運動の指揮をしたものということができる。

(4)被告人吉羽に対する本件公訴事実は、

被告人は

第一、昭和四〇年一二月一七日東京都大田区萩中三丁目二五番地萩中公園において開催された東京都学生自治会連合主催の「日韓条約批准書交換阻止全都学生緊急行動」と称する集会ならびに右集会終了後同公園から同区蒲田消防署羽田出張所前、京浜急行電鉄大鳥居駅前の各交差点を経て同区羽田旭町一一番地荏原製作所羽田工場前に至る間の道路上において行なわれた集団示威運動に学生約六〇〇名とともに参加したものであるが、右学生らが東京都公安委員会の付した許可条件に違反し、同日午前一〇時頃から同一〇時九分頃までの間、右萩中公園から同区萩中三丁目七の七、東京電力羽田サービスステーション前までの道路上において約一〇列乃至三〇列となつてことさらなかけ足行進を行ない、午前一〇時九分頃から同一〇時一〇分頃までの間右羽田サービスステーション前道路上において停滞し、午後一〇時一〇分頃から同一〇時一三分頃までの間、同所から同区東糀谷三丁目六の一一東京螺旋管工業株式会社前までの道路上において約三〇列となつてことさらなかけ足行進を行なつた際、元相被告人豊浦清等約一〇名の学生と共謀の上、

一、被告人において萩中公園から東京螺旋管工業株式会社前までの道路上において終始、右学生隊列の先頭列外に位置し、前向きあるいは、後ろ向きとなり先頭隊伍が横に構えて所持する竹竿を掴んで引張り、かけ声をかけ、手を振り、あるいは学生の肩車に乗つて呼びかけをするなどし、

二、元相被告人豊浦清において同区本羽田三丁目三の五羽田運送店前から東京螺旋管工業株式会社前までの道路上において終始右学生隊列の先頭列外に位置し、前向きあるいは後ろ向きとなり先頭隊伍が横に構えて所持する竹竿を掴んで引張り、笛を吹き、かけ声をかけ、手を振るなどし、

もつて右許可条件に違反した集団示威運動を指導し、

第二、昭和四一年六月一日、横須賀市で行なわれた原子力潜水艦寄港阻止横須賀実行委員会主催の原子力潜水艦寄港阻止横須賀集会に参加したものであるが、同日午後七時三七分ごろから午後八時一三分ごろまでの間、同市汐入町無番地所在の臨海公園中央出入口附近から同市本町三丁目一五番地EMクラブ前に至るまでの道路上において、前記集会に参加した約八〇〇名の学生集団が、神奈川県公安委員会が前記主催者に対し集会、集団示威運動の許可にあたつて付した条件に違反して、約三〇列の縦隊となつて道路いつぱいにひろがつての行進、ジグザグ行進、かけ足行進、隊列のことさらな停滞等を行なつた際、外数名と共謀の上、右集団先頭に位置した宣伝カー上にあつて、マイクを使用し、または手振り等により、前記行進または停滞の指示をし、もつて前記許可条件に違反した集団示威運動を指導したものであるというのである。

<証拠>によれば、被告人吉羽は昭和四〇年一二月七日東京都大田区萩中三丁目二五番地萩中公園において開催された東京都学生自治会連合主催の「日韓条約批准書交換阻止全都学生緊急行動」と称する集会及びこれに引続いて行なわれた集団示威運動に参加したこと、右集団示威運動には「ことさらなかけ足行進、停滞等交通秩序をみだす行為をしないこと」との条件が付されていたこと、右集団示威運動に参加した学生約六〇〇名は、同日午前一〇時頃同公園を出発し、同区蒲田消防署羽田出張所前及び京浜急行電鉄大鳥居駅前の各交差点を経て、同区羽田旭町一一番地荏原製作所羽田工場前に至る道路上において集団示威運動を行なつたこと、右運動の総指揮者は被告人吉羽で、副指揮者は元相被告人豊浦清であつたこと、右学生約六〇〇名は約二〇〇名ずつの三個のてい団に分れ、いずれも隊列の先頭が竹竿を横に構えて所持し、一〇列位の隊伍を組んで行進し、右萩中公園北西の出口から通称萩中バス通り沿いの大田職業訓練所前附近路上に至るまでの間及び産業道路沿いの東京電力サービスステーションから羽田街道沿いの巽食堂ないし東京螺旋管工業株式会社前附近路上に至るまでの間を通常のかけ足行進をし、その余の区間はこきざみなかけ足行進をしたこと、同日午前一〇時九分頃から約一分間右東京電力サービスステーション前附近路上において行進を停止したこと、この間被告人吉羽は終始右第一てい団の先頭列外に位置し、前向きあるいは後向きとなり隊列の先頭が所持する竹竿を掴んで引張り、かけ声をかけたり手を振るなどして右行進を指揮したこと、元相被告人豊浦は同日午前一〇時三分頃右大田職業訓練所前附近路上から右第一てい団の先頭列外に位置し、爾後前向きあるいは後向きとなり隊列の先頭が所持する竹竿を掴んで引張り、笛を吹いたり、手を振つたりなどして右行進を指揮し、さらに午前一〇時九分頃右東京電力サービスステーシヨン前附近路上において隊列に正対して両手を高く上げて右行進を停止させたこと、被告人吉羽の右行進の指揮は元相被告人豊浦外約一〇名の学生と意思相通じて行なわれたものであることを認めることができ、右事実は昭和二五年東京都条例第四四号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例(以下都条例という)第五条、第三条第一項但書、東京都公安委員会指令第一、四二一号昭和四〇年一二月一五日付条件付許可処分に該当する。即ち右許可処分中「ことさらなかけ足行進、停滞等交通称序をみだす行為をしないこと」との条件違反の集団示威運動を指揮したものということができる。次に被告人吉羽の本件公訴事実第二は被告人丸山に対する本件公訴事実と共通するから、被告人丸山についての事実認定と一括して記述する。

(5)被告人丸山に対する本件公訴事実は、

被告人は昭和四一年六月一日、横須賀市で行なわれた原子力潜水艦寄港阻止横須賀実行委員会主催の原子力潜水艦寄港阻止横須賀集会に参加したものであるが、同日午後七時三七分ごろから午後九時五五分ごろまでの間、同市汐入町無番地所在の臨海公園中央出入口附近から同市本町二丁目無番地米海軍横須賀基地正門前に至るまでの道路上において、前記集会に参加した約八〇〇名の学生集団が、神奈川県公安委員会が前記主催者に対し集会、集団示威運動の許可にあたつて付した許可条件に違反して、警察官の指示に従わず二五ないし三〇列位の縦隊となつて道路いつぱいにひろがつての行進、ジグザグ行進、かけ足行進あるいは隊列の停止、坐り込み等により隊列のことさらな停滞等を行なつた際、吉羽忠外数名と共謀の上、右隊列の先頭列外にあつて、先頭隊伍が横にして所持する竹竿を握つて右道路いつぱいにひろがつての行進を誘導し、ついで右集団先頭に位置した宣伝カー上にあつて、拡声器、手振り等によつて、前記ジグザグ行進、かけ足行進、隊列の停止等を指示し、さらに右集団が坐り込みをした際その集団中央にあつてこの継続を呼びかける等し、もつて前記許可条件に違反した集団示威運動を指導したものであるというのである。

<証拠>によれば、被告人吉羽、同丸山は昭和四一年六月一日午後六時半頃横須賀市横須賀臨海公園において開催された原子力潜水艦寄港阻止横須賀実行委員会主催の原子力潜水艦寄港阻止横須賀集会と称する集会及びこれに引続いて行なわれた集団示威運動に参加したこと、右集団示威運動には「ジグザグ行進、かけ足行進、隊列のことさらな停滞、道路いつぱいにひろがつての行進などを行なわないこと」との条件が付されていたこと、右集団示威運動に参加した約八〇〇名の学生は、同日午後七時四〇分頃から(一)、同市汐入町臨海公園中央出入口附近から同市本町EMクラブ前附近路上まで、三〇列位の隊伍を組み、グリンベルトによつて区分された上下車道いつぱいにこきざみなかけ足でのジグザグ行進や行進の停止を繰返し、(二)、右EMクラブ前附近路上で約二〇分行進を停止したこと、(三)、その後右集団の一部約二〇〇名が同市本町一丁目在日米海軍横須賀基地正門前附近路上において同日午後九時一〇分頃から午後一〇時頃まで約五〇分間すわり込みをしたこと、被告人吉羽及び丸山は、右(一)のかけ足でのジグザグ行進や停止の繰返し及び右(二)の行進の停止の際隊列の先頭列外にあつて、先頭の組が横に構えて所持する竹竿を引張るなどして隊列を誘導していた学生数名と意思を通じ合い、被告人吉羽は隊列の先頭を行く宣伝カーの上において、マイクを使用し、笛を鳴らし、手を振るなどして、被告人丸山は隊列の先頭列外において右竹竿を引張つたり、右宣伝カーの上にあつてマイクを使用するなどして右(一)の行進や停止及び右(二)の停止を指揮誘導し、さらに被告人丸山は(三)のすわり込みの際、すわり込みをした学生集団の中央にあつて、学生集団に対しアジ演説をして右すわり込みの継続を煽動したことを認めることができる。

右事実はいずれも県条例第五条、第三条第一項但書、前記神公集第四三号条件付許可処分に該当する。即ち被告人吉羽、同丸山は共同して右許可処分中「ジグザグ行進、かけ足行進、隊列のことさらな停滞、道路いつぱいにひろがつての行進を行なわないこと」との条件違反の集団示威運動を指導したものということができ、さらに被告人丸山は「隊列のことさらな停滞を行なわないこと」との条件違反の集団示威運動を煽動したものということができる。

二、そこで右被告人らの右各所為が県条例によつて、被告人吉羽についてはさらに都条例によつて処罰されるべきか否かについて検討する。

先ず県条例及び都条例は規定の体裁、文言及び内容において殆ど差異がなく、都条例が第一条、第三条において定める規制方法の基本的な部分に関しては憲法第二一条に違反するとまではいえないことについては、すでに昭和三五年七月二〇日最高裁判所大法廷判決の存するところであり、右基本的な部分に関しては現行裁判制度の基本構造と法的安定性保持の見地から当裁判所としても右判決の趣旨に従うのであるが、同判決の基本的な理由は、都条例の許可制は、許可が義務づけられており、不許可の場合が厳格に制限されているから、その実質において届出制とことなるところはないという部分に存するものと解すべきことは前記理由第一の弁護人らの主張に対する判断四において述べたとおりであつて、同判決が扱つているところは右の基本的な部分に限られていることは明らかである(以下単に本条例というときは県条例及び都条例をいう)。

本条例第五条のうち、第三条第一項但書の規定による条件に違反する集団行動の主催者らを処罰する規定は白地刑罰法規であり、公安委員会が許可にあたつて付与する条件によつてその犯罪構成要件の具体的内容が補充されるものであることは、右各規定自体に徴し明らかであり、一定の範囲の刑を定めた白地刑罰法規は、一定の範囲の刑に限つて罰則を設けることを委任する場合と実質的にことなるところはない。

ところで条例に罰則を制定することができるのは憲法第九四条に由来するものと解すべき根拠はなく、同法第三一条は刑罰法規は人権保障のうえから国会の制定する法律によらなければならないものとしているが、同法第七三条第六号但書によつても明らかなように、同法第三一条は必ずしも刑罰がすべて法律そのもので定められなければならないとするものではなく、法律の授権によつてそれ以下の法令によつて定めることもできるものであり、地方自治法第一四条第五項は正にこの委任規定であつて、この規定によつてはじめて条例に罰則を制定することができるものと解すべきである。

そうすると条例中に白地刑罰法規を制定することは、地方自治法による条例への罰則の委任に加えるにさらに、条例によるそれ以下の形式による法令への犯罪構成要件の再委任を意味することとならざるを得ないのである。

元来罰則の委任は、憲法第三一条の規定する罪刑法定主義に対する例外であるから、特にその法律の委任がある場合というのも厳格に解釈されることが要求され、罰則の委任をする法律において、刑罰を定める目的を明らかにし、違反行為に該当する事項を限定し、これに科せられるべき刑罰の限度を示して、即ち個別的ないし具体的に委任しなければならないものと解されるのであつて、かような委任をした場合において、さらに白地刑罰法規を設けて犯罪構成要件の内容を再委任することは、当該法律がこれを許容することを明示していない以上、憲法第一条に違反するものと解さなければならない。

そこで条例への罰則の委任の根拠である地方自治法第一四条第五項の規定が、かかる犯罪構成要件の再委任を条例に許容しているか否かを検討するに、同条項の文言自体からはかような再委任を明らかに許容していると解すべき根拠は見出すことができないのであり、憲法第三一条の厳格解釈の要請からしてもかような再委任を許容しているものと解すべきものではない。

地方自治法第一四条第五項の規定をもつて条例が地方公共団体の自主立法であることを前提とし、同条第一項、同法第二条第二項、第三項と相まつて、個別的ないし具体的な罰則委任の規定に外ならないと解するにせよ、条例の性質上限定された事項につき一定限度の罰則を委任した一般的委任の規定と解するにせよ、右規定の委任により、条例をもつて定められる罰則規定自体において、犯罪構成要件及びこれに対する刑罰が明確にされているのでなければ右規定の委任を根拠として条例に白地刑罰法規を設けることは、憲法第三一条の罪刑法定主義の原則に違反するものといわなければならない。

国の法令について罰則の再委任を許さないとの憲法第三一条の趣旨は、憲法第七三条が、内閣は他の一般行政事務の外左の事務を行なうと規定し、その六号で「この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。」と定め、これを受けて国家行政組織法第一二条が「各大臣は主任の行政事務について法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいてそれぞれその機関の命令(総理府令又は省令)を発することができる。」(一項)、右「命令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、又は義務を課し若しくは国民の権利を制限する規定を設けることができない。」(四項)と規定しているところにも、これを読みとることができる。

これらの規定は単に罪刑法定主義の原則からする当然のことを規定した注意的なものにとどまるものではなく、法律の規定を実施するため政令が制定され、その政令を施行するため、又その特別の委任に基づいて命令(政令以外の命令。以下同じ)が発せられる場合において、その命令に罰則を設けることができるためには法律の直接の委任があることを必要としているのであつて、その趣旨は、法律の委任によつてその政令に罰則が設けられている場合においても異るものではなく、この場合にさらに命令に罰則を設けるについても法律の直接の委任を必要としているものと解されるのである。即ち、右に引用した規定は、政令において命令に罰則の再委任をするについても法律の直接の委任、いいかえれば法律のかかる再委任を認める規定を必要とすることを明らかにしているものと解されるのであつて、憲法第三一条は法律自体に政令による命令への罰則の再委任を認める規定が存しない以上かかる再委任をすることを許容していないものとの解釈を前提としているものということができる。

なお憲法上一般に、最初に委任した法律が個別的、具体的に限定した特別の事項の範囲内においてその一部の詳細を規定する限りにおいて、委任命令の再委任が許されることを根拠として、そうである以上、罰則の再委任についても、最初に委任した法律が規定の上で具体的に当該第一次の委任命令に罰則を設け得ることを個別的に委任し、かつ、その再委任がいわゆる白紙授権もしくは白地授権の如き広汎な一般的授権に該当せず第一次の委任事項の範囲内で具体的な細目を規定することを授権するものである限り、憲法第三一条に違反しないとの考え方があるが、かような考え方をとるとしても、条例における罰則が委任立法の一と解すべきものである以上、右にいう最初に委任した法律とは地方自治法の前示の規定であるといわなければならず、本条例はいずれも地方自治法第二条第三項第一号の極めて広範囲にわたる事務について制定されたものであるから、この意味では地方自治法の前示の規定が個別的、具体的に罰則の委任をしているものと解することはできない。

されば本条例は地方自治法第二条第三項第一号に掲げられた「地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持すること」という事務について、同法第一四条第五項によつて限定的に委任された刑罰の範囲内において罰則を定めるものであるが、本条例第五条のうち、第三条第一項但書の規定による条件に違反する集団行動の主催者らを処罰する規定は、公安委員会に対しその犯罪構成要件の具体的内容を補充することを再委任しているものであつて、かかる再委任は地方自治法第一四条第五項の委任の限界を超えるものであつて違法無効であり、従つて右罰則規定は法律の根拠を欠き憲法第三一条に違反し無効というべきである。

三、更に本件においては、本条例第三条第一項但書により付与された各条件中には、同条但書の趣旨を逸脱し、必要最小限度を超える内容を有し憲法第二一条に違反し無効であるもの、あるいは国の法令又は本条例自体に牴触するか、あるいはその趣旨に違反し無効であるもの、憲法第三一条に違反し無効であるもの等が混在し、結局本件各条件は全体として憲法第二一条の要請する必要最小限度の制約を超えるものとして同条に違反し無効であると解する。

(一)先ず集団行動の自由は現代の大衆民主主義のもとにおいては憲法第二一条の保障する表現の自由のなかでも極めて重要な役割を果すものであり、また代議制民主主義のもとではその正常な運営上、選挙権を補う不可欠の参政手段の役割を有するものであるが、集団行動の性質上及び憲法第一二条、第一三条からして、集団行動の自由といえども他人の基本的人権との矛盾衝突を調整する実質的公平の原理による当然かつ内在的の制約を内包しているものであること、この意味において右制約は必要にしてやむを得ない最小限度のものでなければならないことは、前記理由第一の弁護人らの主張に対する判断四において述べたとおりである。

次に本条例第三条第一項但書によつて公安委員会が付することのできる条件は、同項第六号を除いて、いわゆる行政行為の附款(負担)であつて、集団行動の許可に附随して、その一般的効果を制限し、集団行動を行なう者に対し特別の作為、不作為の義務を命ずるものである。そして右条件は、附款の性質上具体的な行政行為即ち集団行動実施の許可の目的に照らし必要最小限度に止まらなければならないことは当然であり、これを超えて付することの許されない条件を付した場合には、法規裁量の限界を逸脱したものとして無効となるというべきである。

のみならず右第三条第一項但書は「必要な条件をつけることができる」と規定するのみで、いかなる場合に必要と認めて条件をつけることができるかについての基準を明示していないし、また条件をつける必要がある場合に条件を付し得る事項は明示しているけれども、その内容的な限度については明示するところがないが、本条例第三条は許可を義務づけており、しかも無条件の許可を原則とすることは規定上明らかであるから、この点からしても条件を付し得る場合とその事項、限度は必要最小限度のものでなければならない。

そこで本条例における集団行動実施の許可制の目的を検討するに、本条例第三条の規定からして右許可制の目的は公共の安寧の保持にあり、本条例は地方自治法第二条第三項第一号の事務に関して制定されたものであるから、公共の安寧の保持とは、住民及び滞在者の生命、身体、自由、財産ないしは地方公共の安全と秩序(以下単に地方公共の安全と秩序という)に対する侵害を予防し、これを保護することを意味するものと解するべきであり、右許可制は集団行動の自由とその反対利益即ち地方公共の安全と秩序との矛盾衝突を必要最小限度において調整することを目的とするものであるといわなければならない。しこうして都条例についての昭和三五年七月二〇日最高裁判所大法廷判決の基本的な理由は、都条例の許可制は、許可が義務づけられており、不許可の場合が厳格に制限されているから、その実質において届出制とことなるところはないという部分に存すると解すべく、従つて同判決は、昭和二四年新潟県条例第四号行列行進、集団示威運動に関する条例についての昭和二九年一一月一四日最高裁判所大法廷判決の採用する集団行動の自由とその規制に関する根本原則を採用しているものと解さなければならないことは前記理由第一の弁護人らの主張に対する判断四において述べたとおりである。

そこで本条例第二条の規定する許可申請は、実質的に集団行動の実施の届出とことならないものであつて、公安委員会がかかる許可申請を受理することによつて集団行動の自由とその反対利益との必要最小限度の調整をなし得る点にその意味があるものというべく、本条例第三条の公安委員会が許可申請の対象とされている集団行動の実施を不許可とすることができるとの点は、当該許可申請に対し、地方公共の安全と秩序を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合に、かかる直接の危険の発生の予防を実効あらしめるため、当該集団行動の実施を例外的に禁止することができるとする趣旨であり、本条例第一条に規定する許可とは、当該許可申請のあつた集団行動の実施が地方公共の安全と秩序を保持する上に直接危険を及ぼすと明らかに認められる場合にあたらないことを確認する行為にほかならないと解すべきである。しこうして本条例第三条は許可を義務づけており、しかも無条件の許可を原則としているから、許可をする場合としては、当該集団行動の実施が地方公共の安全と秩序を保持する上に直接危険を及ぼすことが明らかに認められる場合もあり得るが、右の直接の危険を及ぼすおそれがある場合にも許可をしなければならないのであつて、本条例第三条第一項但書は、かような直接危険を及ぼすおそれのある場合に、その直接の危険の発生を予防するため必要最小限度の条件を例外的に付することができるものとしていると解すべきである。

しこうして地方公共の安全と秩序とは、当該地方における社会共同生活が安穏正常に運行している状態をいうものであつて、集団行動の実施はその性質上、平穏整然と行なわれる場合においても、かような状態に対しある程度の影響を及ぼすことがあることはこれを避けることができないのであるから、これに対し直接危険を及ぼすとは、かかる程度を超えてこれを著しく混乱させ、阻害し、かく乱することを意味するものと解すべく、条件はかかる程度を超えた著しい混乱、阻害、かく乱を予防するために必要最小限度において付することができるものといわなければならず、集団行動による思想、意見の表現自体を制約するものであつてはならないことは憲法第二一条の要請からして当然であり、ただ集団行動の自由の具体的な行使の態様に関してのみ付し得るものというべきである。

しかして右条件は、集団行動の自由とその反対利益との調整措置として、地方公共の安全と秩序に対する「直接の」危険の発生を予防するために付されるものであるところからして、これに違反すれば当該集団行動自体が条件違反という義務違反性を帯有するにいたる程度の内容を有するべきものである。集団行動にあたつて付される条件は集団行動を行なう者に対し特別の作為、不作為の義務を命ずるものであるが、個々の参加者が条件に違反しても、条件違反という義務違反を伴う集団行動を結果しないような条件はこれを付する意味を有しないことは条件付与の目的に照らして明らかである。

また、本条例第五条のうち、第三条第一項但書の条件に違反する集団行動の主催者らを処罰する規定は白地刑罰法規であり、公安委員会が集団行動の実施の許可に附随して付する条件は、単に行政行為の附款にとどまるものではなく、これによつて右白地刑罰法規の犯罪構成要件の具体的内容を補充するものであつて刑罰の根拠となるものである。従つて右条件は犯罪構成要件として明確なものであることを必要とし、構成要件として不明瞭である場合には憲法第三一条に違反し無効であるといわねばならず、条件が条例の罰則の内容を補充するものである以上、国の法令に違反しない限りにおいてこれを付与することができるものであり、国の法令の内容と牴触し、あるいはその趣旨に反するときはその限度で無効となることは明らかであるというべく(地方自治法第一四条第一項、第二条第一四項、第一五項)条例の規定自体と牴触するときも無効となることは当然である。さらに右条件は本条例第四条の即時強制の根拠となるものであるから、この意味においても不当な運用がなされないように明確な内容を有するものでなければならない。

即時強制は一般に人民の自由又は財産に対し実力をもつて侵害を加えるものであるから、集団行動の自由を不当に侵害しないよう必要最小限度においてなされなければならないことは当然であり、これを担保する意味においても条件の付与は恣意的であつてはならず、必要最小限度のものでなければならない。

(二)そこで以上の見地に立つて本件各条件の効力を検討する。

(1)先ず昭和四一年五月三〇日及び同年六月一日の両日それぞれ原子力潜水艦寄港阻止横須賀実行委員会主催の集会、集団示威運動の許可に当つて県条例第三条第一項但書により付与された条件はいずれも次のとおりである<証拠略>。

一、集会集団示威運動の秩序維持に関する事項

(1)本集団運動は主催者及び役員の自主統制のもとに秩序正しく行ない、主催者及び役員は腕章又は適当な標識をつけ、責任者であることを明示し、その責任区分を明確にしておくこと。

(2)主催者は、集会の会場及びデモ出発地附近等に雑踏整理要員を配置して、参加者の安全を図ると共に、混乱、雑踏等による事故防止につとめること。

(3)主催者は、デモ行進中に参加者団体以外の団体との間に紛争事案が発生した場合は、ただちに現場附近の警察官に連絡するほか、事態の拡大防止のため参加者の整理誘導等所要の措置をすること。

(4)めいてい者、もしくは精神病者を参加させないこと。

(5)デモ行進に際しては、学生集団はデモ隊の最後尾とすること。

二、交通秩序維持に関する事項

(1)行進は六列縦隊とし、一隊の人員はおおむね三〇〇名、各隊の距離は約三〇メートルとすること。

(2)本デモ行進の通行区分は車道右側端に寄つて行進すること。ただし道路工事のため、現場警察官がこれと異なる指示をした場合は、これに従つて行進すること。

(3)宣伝カーは、各隊の先頭または後尾に位置させ、徒歩隊と併進させないこと。

また、行進隊列中の車両は正当な理由なく停止し、または後退するなど隊列および他の交通の妨害となるような行為をしないこと。

(4)デモ行進は、交通信号、警察官の指示に従い平穏に秩序正しく行ない、ジグザグ行進、渦巻き、かけ足行進、おそ足行進、隊列のことさらな停滞、道路いつぱいにひろがつての行進、プラカード、旗竿等を横に構え、または大きく振つての行進などは行なわないこと。

(5)各隊には、腕章を付した責任者を先頭に位置させ、その補助者を車輛等が通行するがわにつけて隊列が、整然と秩序正しく行進するようその整理につとめること。

(6)出発時刻、行進路線を変更しないこと。解散地では到着順に流れ解散し、主催者および現場責任者は、団体が平穏に解散するよう指揮すること。

三、危険物携帯の制限等危険防止に関する事項

(1)参加者は刃物、鉄棒、こん棒、石、その他危険な物件を携帯しないこと。

(2)参加者は、カンシャク玉、玩具、花火、爆竹、水素入り風船等を携行しないこと。

四、夜間の静ひつ保持に関する事項

参加者は夜間行進中においては、拡声機の使用、多衆の合唱、声援、シュプレヒコール等により著しくけん騒にわたるなど周囲の静穏を害するような行為をしないこと。

以上の条件は、主催者または現場責任者が、事前または行進出発地点において示達、繰返しの放送などの方法により周知徹底させること。

以上

前掲各証拠によれば右条件は道路交通法第七七条第三項の規定によつても付与されていることが認められるが、県条例によるものと道路交通法によるものとは何ら区別されていないから、すべて県条例によつて付与されたものとして以下に検討することとする。

次に昭和四〇年一二月一七日東京都学生自治会連合主催の集会及び集団示威運動の許可に当つて都条例第三条第一項但書により付与された条件は次のとおりである<証拠略>。

一、秩序保持に関する事項

(1)主催者および現場責任者は、集会、集団示威運動の秩序保持について指揮統制を徹底すること。

(2)時間および進路を厳守すること。

(3)病院、学校等の近くを通るときは、とくに静粛を保つこと。

(4)解散地では、到着順にすみやかに流れ解散すること。

二、危害防止に関する事項

(1)鉄棒、こん棒、石その他危険な物件は、一切携行しないこと。

(2)旗ざお、プラカード等のえ(柄)に危険なものを用い、あるいは危険な装置を施さないこと。

三、交通秩序維持に関する事項

(1)行進隊形は五列縦隊、一てい団の人員はおおむね二五〇名とし、各てい団間の距離はおおむね一てい団の長さとすること。

(2)だ行進、うず巻き行進、ことさらなかけ足行進、おそ足行進、停滞、すわり込みあるいは先行てい団との併進、追越しまたはいわゆるフランスデモ等交通秩序をみだす行為をしないこと。

(3)旗、プラカード等の大きさは、一人で自由に持ち歩きできる程度のものとすること。

(4)旗ざお等を利用して隊伍を組まないこと。

(5)発進、停止、その他行進の整理のために行なう警察官の指示に従うこと。

(2)本件で違反したとされている条件は、右のうち同四一年五月三〇日の事件(被告人古根村、同降旗)については、交通秩序維持に関する事項の、「デモ行進は、交通信号、警察官の指示に従い平穏に秩序正しく行ない、ジグザグ行進、かけ足行進、隊列のことさらな停滞などは行なわれないこと」というのであり、同年六月一日の事件(被告人神保、同吉羽、同丸山)については、交通秩序維持に関する事項の、「行進は六列縦隊とすること」「デモ行進は交通信号、警察官の指示に従い平穏に秩序正しく行ない、ジグザグ行進、かけ足行進、隊列のことさらな停滞、道路いつぱいにひろがつての行進などは行なわないこと」(被告人神保の関係では道路いつぱいにひろがつての行進を除く)というのであり、同四〇年一二月一七日の事件(被告人吉羽の都条例違反事件)については、「ことさらなかけ足行進、停滞等交通秩序をみだす行為をしないこと」というのである。

右の「行進は六列縦隊とすること」という条件及び「ジグザグ行進、かけ足行進、道路いつぱいにひろがつての行進などは行なわないこと」という条件は、当該各集団行動の進路が横須賀市の中心部であつて交通の頻繁な事情を考慮するならば、参加者及び一般通行者の安全のためにも、交通上の危険と混乱を防止するためにも必要最小限度の合理的な規制であるということができ、また「ことさらなかけ足行進等交通秩序をみだす行為をしないこと」という条件も東京都内の道路交通事情を前提とする限り同様である。

かけ足行進については議論の存するところであるが、集団のかけ足行進は、徒歩で行進する場合に比べて、周囲の交通状況の変化に対応するための行動に困難を伴い、先行するてい団のある場合には併進、追越し等に発展し易いものであるから、一般に参加者自身及び一般交通者の生命、身体に対する危険を伴い、道路交通の著しい混乱、阻害を生ずるおそれがあり、これを予防するためかけ足行進を禁止することは必要最小限度の合理的制約ということができる。もつとも先行てい団との併進、その追越をしないような速度でかけ足行進をすることも不可能ではなく、かようなものまで禁止する必要性があるとは考えられず、解釈上かようなものを除外する余地はあるといえるが、数個のてい団がかけ足行進をすることは、併進、追越をしないまでも、道路交通の著しい混乱、阻害を生ずるおそれがあり、原則としてかけ足行進を禁止することは必要最小限度の合理的規制であるといわなければならない。

しかし「隊列のことさらな停滞を行なわないこと」「停滞等交通秩序をみだす行為をしないこと」という条件は、すでに道路交通法第七六条第四項第二号の、何人も道路において、交通の妨害となるような方法で寝そべり、すわり、しやがみ、又は立ちどまつている行為をしてはならないとの規制とその対象が同一であるかあるいは重複するものであつて、その規制の趣旨、目的も同一であるかあるいは重複するものと解されるから、国の法令自体に牴触するかあるいはその趣旨に反することとなり無効であるといわなければならない。交通の妨害となるような方法によらない停滞については道路交通法の右規定はこれを処罰しないことを明示しているものと解すべきであるから、これを条件とすることができないことは明らかである。

本条例第三条第一項但書による条件は、集団行動の参加者に対して付与されるものであつて、本条例第五条は集団行動の参加者が共同の意思をもつて条件に違反する行為を行なつた場合において、条件違反の集団行動の行なわれることを知りながらこれを開催実施した主催者、集団行動の参加者に対し条件違反の集団行動の行なわれるよう指導する行為をした者、又は煽動する行為をした者を処罰するものであるが、そもそも条件に違反した集団行動の刑事責任を問うには、結局これに参加した者個々人についてこれを問う外はないのであつて、ただ集団行動の特質上これに関与した者の地位、役割等に応じて処罰の軽重、あるいは処罰する者としない者とを区別することが妥当とされるわけであり、個々の参加者の条件違反の行動なしに条件違反の集団行動はあり得ず、また主催者、指導者、煽動者の行為はとくに構成要件として掲げられていないのであるから、本条例第五条、第三条第一項但書の規定は条件違反の集団行動をなした者のうち、単なる参加者と主催者、指導者及び煽動者とを区別し後者のみを処罰するという趣旨であり、その構成要件は条件違反の集団行動をしたことであると解すべきである。また、主催者、指導者、煽動者を如何に定義するにせよ、同人らが条件違反の集団行動をした場合において、右主催者等が条件の内容と同一か又は重複する構成要件をもつ他の法令の罰則と刑法第六〇条の規定とによつて処罰されることがあり得ることも明らかである。

従つて本条例第五条、第三条第一項但書の構成要件の内容をなす条件自体が国の法令の罰則規定の犯罪構成要件の内容と同一であるか、あるいは重複するときは、直接国の法令に牴触するか、あるいはその趣旨に反することとなつて無効であり、結局右の如き条件によつて補充される本条例第五条、第三条第一項但書をもつて右主催者、指導者、煽動者を処罰することはできないものというべきである。

また右の「デモ行進は交通信号、警察官の指示に従い平穏に秩序正しく行ない」という部分は、その後段の部分とは別個の意味内容をもつものと解されるところ、道路を通行する歩行者が交通信号に従わなければならないことは道路交通法第四条第二項の規定するところであつて、しかもその義務違反に対しては同法第一一九条第一項第一号により三月以下の懲役又は三万円以下の罰金が法定刑とされており、県条例第五条の法定刑よりも軽い刑罰が定められているのであるから、結局この点は道路交通法の右罰則規定に牴触することとなり、無効であるといわなければならない。また警察官の指示に従うべきことは、県条例上警察官に対しこのような指示権を与えた条項はなく(このような指示権を与えることは公安委員会が警察官に対しさらに犯罪構成要件の内容を補充することを委任することとなるから条例上の根拠を必要とするものと解する)、右指示権は道路交通法第一五条、第五条ないし第七条、第一一条の権限に外ならず、しかもこれらの条項の罰則としては同法第一一九条ないし第一二二条にいずれも県条例第五条の法定刑よりも軽い刑罰が法定されているのであるから、この条件も道路交通法の右罰則規定に牴触し無効であるといわなければならない。

(3)以下本件に対し直接適用されるものとされていない条件を順次検討する。

イ、県条例による条件について

前記一の(1)ないし(5)の各条件は主催者及び役員を名宛人とするもので、同人らがこれに違反したからといつて集団行動自体が条件違反としての義務違反性を帯びる理由があるとは考えられないから、この意味で調整措置としての条件の必要最小限度を超えるものであり、県条例第三条第一項但書によつては付し得ない条件として無効であるといわなければならない。

二の(2)の条件はすでに道路交通法第一一条の規定するところであつて、しかもその義務違反に対しては同法第一二一条第一項に罰則が存在し、県条例第五条よりも軽い刑罰が法定されているところであるから、道路交通法の右罰則規定に牴触し無効であるといわなければならない。

二の(3)の条件の前段はこれに違反したからといつて集団行動自体が条件違反としての義務違反性を帯有するにいたる理由はなく、この意味で調整措置としての条件の必要最小限度を超え、県条例第三条第一項但書によつては付し得ない条件として無効であり、その後段は単なる交通妨害行為であつてすでに道路交通法第七〇条の規定するところであり、しかも同条の安全運転義務の違反に対しては同法第一一九条第一項第九号の罰則が存在し県条例第五条の法定刑より軽い刑罰が法定されているから、この点も道路交通法の右罰則規定に牴触するものとして無効である。

二の(5)の条件は前記一の(1)ないし(5)の各条件の場合と同様の意味で無効である。

二の(6)の条件については、出発時刻、行進路線を変更することは、県条例第二条第三号、第四号の記載事項違反の集団行動を行なうことになり、これに対しては県条例上別個独立の罰則が存在しているのであるから、これをさらに条件をもつて規制することは県条例の規定自体に違反することとなり無効であるといわなければならない。後段の流れ解散の点も同様の理由により無効である。

三の(1)の条件中参加者は刃物を携帯しないことという点については、銃砲刀剣類所持等取締法第二二条はその本文において正当の理由ある場合を除いて一定の刃物の携帯を禁止し、その但書において一定の刃物についてはこれを除外し、その罰則である同法第三二条第二号の法定刑は一年以下の懲役又は三万円以下の罰金であるから、右条件が刃物一般の携帯を禁止し、これに対し罰則として県条例第五条が一年以下の懲役若しくは禁錮又は五万円以下の罰金を法定刑としていることは、銃砲刀剣類所持等取締法の右規定に牴触するものであり右条件は無効であるといわなければならない。

四の条件は夜間行進中における拡声機の使用、多衆の合唱、声援、シュプレヒコール等を全面的に禁止するものである。しかし本件は夜間における集団示威運動として許可されたものであつて、これらの行為を全面的に禁止することは集団示威運動の表現せんとする思想意見を不当に制約するものといわざるを得ない。かような行為は一般公衆の日常生活の便益に影響を及ぼすものではあるけれども、深夜にわたる場合はともかく、時間的場所的に限定されているならばある程度は受忍すべきものであることは憲法第二一条の保障する集団行動の実施である以上当然である。本件においては前記両日の夜間における各集団示威運動はいずれも午後七時半から二時間の予定とされ、その行進路線も市街中心地であつて、前記の如き行為を許容したとしても地方公共の安全と秩序を著しく侵害するおそれがあるものとは認められず、右の如き条件は必要最小限度の調整措置としての限界を超え、県条例第三条第一項但書によつては付し得ないものであつて無効であり、かつ憲法第二一条に違反するものといわなければならない。

最後に主催者又は現場責任者が条件内容を参加者に周知徹底させることも条件とされているが、右は前記一の(1)ないし(5)の各条件の場合と同様の意味で無効である。

ロ、都条例による条件について

一の(1)の条件は主催者及び現場責任者を名宛人とするものであり、同人らがこれに違反したからといつて集団行動自体が条件違反としての義務違反性を帯びる理由があるとは考えられないから、この意味で調整措置としての条件の必要最小限度を超えるものというべく、都条例第三条第一項但書によつては付することのできない条件として無効である。

一の(2)の条件は、時間及び進路を変更することは、都条例第二条第三号、第四号の記載事項違反の集団行動を行なうことになり、これに対しては都条例上別個独立の罰則が存在しているのであるから、これをさらに条件をもつて規制することは都条例の規定自体に違反することになり、無効であるといわなければならない。一の(4)の流れ解散の点も同様の理由により無効である。

一の(3)の条件は、病院、学校等とはいかなる範囲でいうのか、とくに静粛を保つとはいかなる程度をいうのか不明確なるを免れず、明確であるとすれば後段は結局拡声機の使用、多衆の合唱、声援、シュプレヒコール等一切を禁止するものと解さざるを得ないが、然りとすれば集団示威運動の表現せんとする思想、意見を不当に制約するものといわなければならない。右の如き音響を発する行為が一般に交通機関等がいわば終日発する騒音に比べて、いかなる程度に限界を超えて、病院、学校等を使用する公衆の生活上の便益を害するというのであろうか。集団示威運動(行進)の発する音響はそれが通過する間に限られているのである。右条件はその内容において不明確である点において憲法第三一条に違反するものであるのみなあず、かかる不明確な内容の条件は集団行動の自由に対する必要最小限度を超えた規制を招来し、集団行動による思想、意見の表現自体に対する制約を結果する可能性を有するという意味において憲法第二一条に違反するというべく、また明確であるとすれば必要最小限度を超えかつ憲法第二一条に違反する制約であつて、いずれにしても無効である。

三の(3)および(4)の各条件はこれに違反したからといつて集団行動自体が条件違反としての義務違反性を帯有するに至る理由はなく、この意味で必要最小限度を超えるものであつて共に違法無効である。

三の(5)の条件は、都条例上警察官に対しこのような指示権を与えた条項はなく(前記のとおりこのような指示権を与えることは公安委員会が警察官に対しさらに犯罪構成要件の内容の補充を委任することとなるから、条例上の根拠を必要とするものと解する)、右の指示権は道路交通法第一五条、第五条ないし第七条、第一一条の権限に外ならず、しかもこれらの条項の罰則としては同法第一一九条ないし第一二二条にいずれも都条例第五条の法定刑よりも軽い刑罰が法定されているのであるから、道路交通法の右罰則規定に牴触するものとして無効である。

(三)  以上において検討したように、本件各条件中には、本条例第五条により犯罪構成要件になるものもあるが、集団行動の自由とその反対利益の調整措置としての条件の必要最小限度を超え憲法第二一条に違反しているか、道路交通法等の国の法令に牴触し、あるいはその趣旨に反しているか、条例の規定自体に違反しているか、条例上の根拠を欠くか、憲法第三一条に違反しているかいずれかによつて無効となるものが多数混在しているのである。このことは右各条件が犯罪構成要件を補充して刑罰の根拠となり、あるいは即時強制の根拠となる事項か否かについての充分な検討を経たものでないことを示すものといえるが、本件各条件はその形式においてあくまでも行政行為の附款として付されたものであり、かつ本条例第五条により犯罪構成要件の内容を補充する規範としての性費を有するものとして付されたものであることは明らかであるから、かかるものとしてその効力を判断すべきである。

かかる条件の内容をとらえて、無効な条件をもつて単に注意事項ないし要望事項にすぎないとして元来条件ではないとする考え方は、かえつて公安委員会が条件として付した意思を無視する点で恣意的であることを免れないし、また条件としてその効力を判断せずに単に事実行為にすぎないとすることは公安委員会の恣意を招く可能性を招来するものであつて、とることができない。

以上において無効と判断した条件には、その内容において、平穏で秩序ある集団行動にあつては自ら当然に遵守しており、また遵守すべきものも存在することは当裁判所としてもこれを肯定するのであるが、しかしそのこととこれを条件として即時強制の前提とし、あるいは刑罰を科し得るものとすることができるか否かとは別個の問題であるといわなければならない。

しかも県条例違反の各事件については証人太田清一の当公廷における供述により、都条例違反事件については公判調書謄本中証人山田英雄の供述記載により、これらの条件は公安委員会、警察当局においてすべて文字どおり条件として即ち即時強制の根拠となり、犯罪構成要件の内容たり得るものとして扱われていることが認められるのであつて、これらの条件はすべて有効なものとして、即時強制、現行犯逮捕の根拠となるものとして解釈運用される可能性のあつたものであることは明らかである。

従つて以上の無効の条件に基づく実力規制ないし現行犯逮捕が行なわれる可能性が現に存在していたことは明らかであり、かような可能性を予防し得べき何らの保障もなかつたのであつて、以上の無効の条件に基づいて不当な実力規制ないし現行犯逮捕が行なわれたとすれば、集団行動としての表現の自由はその時点において侵害されてもはや回復し得ず、不当な事前抑制が行なわれた場合と殆どことなるところがないことに帰着する可能性が存在したものといわなければならない。即ち、以上の如き無効の条件を条件として存在せしめていることは集団行動としての表現の自由の憲法上の保障を侵害する可能性を明らかに包蔵しているものであるといわなければならない。本件においては無効の条件の違反を前提として実力規制ないし現行犯逮捕がなされたとの事実を認めるに足りる証拠はないが、表現の自由の憲法上の保障の問題としてはまさに以上のような自由侵害の可能性の存在を能う限り縮小することが重要なのであるから、かような事実の発生の有無はこれを論ずる必要がないのである。

結局本件各条件中以上に指摘した無効の条件のうち、県条例関係では前記四の条件は直接集団行動としての表現の自由に対する侵害であり、都条例関係では前記一の(3)の条件は右侵害の可能性を有するものであつて、いずれも本条例第三条第一項但書の趣旨を逸脱し、必要最小限度を超えたものとして違法無効であり、かつ憲法第二一条に違反し無効であるというべく、その余の無効の条件のうち、道路交通法、銃砲刀剣類所持等取締法に牴触するか、その趣旨に反するが故に無効であるもの、本条例の規定自体に牴触するが故に無効であるものを除外した各条件は、いずれも本条例第三条第一項但書の趣旨を逸脱し必要最小限度を超えたものとして違法無効であり、かような条件もその違反を前提とする実力規制ないし現行犯逮捕がなされる可能性が存在し、これを予防し得べき保障は存しない以上、集団行動としての表現の自由に対する侵害の可能性を存在せしめるという意味において憲法第二一条に違反し無効であるといわなければならない。

しかして一個の条件付許可処分の一部の条件が、集団行動としての表現の自由に対する侵害であるか又はその可能性を有するが故に憲法第二一条に違反し無効である場合には、残余の条件が合憲、有効と解される場合においても、全条件を一体として憲法第二一条に違反し無効と解すべきである。

即ち、かような場合において違憲、無効の条件と合憲、有効の条件とを可分のものとして考える立場からすると、合憲、有効の条件違反の事実についてのみ起訴がなされるならば、裁判所としては残余の条件の違憲、無効の点については判断をする必要がないこととなり、また判断をしても何らの法的効果もないのであつて、違憲、無効の条件をそのまま存続させる結果とならざるを得ないのである。かくては公安委員会としては、起訴にあたつて違憲、無効の疑問のない条件違反の事実に限定するということさえ保障されるならば、取締の便宜上可能なあらゆる条件を付して実力規制ないし現行犯逮捕の根拠として規制を加えることができることとなり、裁判所はかような表現の自由を侵害しあるいはその可能性を包蔵する運用の可能性を保障するという結果を招来するものといわざるを得ない。これが杞憂でないことは本件各条件について検討したところから明らかである。

仮に無効な条件を根拠として不当な実力規制ないし現行犯逮捕がなされた場合には、その不適法を理由とする事後的な救済を受ければ足りるとする考え方がありうるが、しかし救済を受けなければならないのは集団行動としての表現の自由の侵害なのであるからこの考え方はあたらない。右の不当な実力規制ないし現行犯逮捕により集団行動の参加者の個人的な自由等の法益が侵害された場合に損害賠償等の救済を求め得ることは当然であるが、集団行動による表現の自由の侵害に対しこれを金銭賠償で救済すれば足りるとは考えられず、むしろ救済は不可能であると考えられるし、また実力規制に対する公務執行妨害ないし条件違反等を理由とする刑事裁判において無罪となつたところで、それは無効の条件に基づく実力規制ないし検挙に対する救済であつても、集団行動としての表現の自由の侵害を回復せしめ得るものではなく、これに対する救済とはいうことができない。

以上の次第であるから、本件各条件は全体として憲法第二一条に違反し、無効であるといわなければならず、右条件によつて補充される本条例第五条、第三条第一項但書はこれを適用することができない。

四、以上により、被告人降旗、同古根村、同吉羽、同神保、同丸山に対する県条例違反の各公訴事実、同吉羽に対する都条例違反の公訴事実はいずれも罪とならず、刑事訴訟法第三三六条前段により右被告人らに対し無罪の言渡をすべきものである。

よつて主文のとおり判決する。(斎藤欽次 広岡得一郎 東条宏)

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